健康診断で「コレステロールが高い」「LDLコレステロールが高い」「中性脂肪が高い」と指摘されても、自覚症状がないため、治療が必要なのか迷われる方は少なくありません。
脂質異常症の治療で大切なのは、単に検査値を「正常範囲」にすることではありません。
脂質異常症を治療する最大の目的は、将来の心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患を予防することです。
そのため、同じLDLコレステロール150mg/dLという方でも、年齢、高血圧、糖尿病、喫煙、慢性腎臓病、心筋梗塞や狭心症の既往などによって、治療の必要性や目標値は大きく異なります。
当院では循環器専門医が、コレステロールの数字だけではなく、その方が将来心血管病を発症するリスクを総合的に評価して治療方針を決めています。
脂質異常症とは
血液中には、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪(トリグリセライド)などの脂質があります。
いずれも身体に必要な成分ですが、多すぎたり少なすぎたりすると動脈硬化の原因になります。
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)
LDLコレステロールは、肝臓で作られたコレステロールを全身へ運ぶ働きをしています。
ホルモンや細胞膜を作るために必要なものですが、血液中のLDLコレステロールが多すぎる状態が長く続くと、血管の壁にコレステロールが蓄積して「プラーク」が形成されます。
この状態が動脈硬化です。
動脈硬化が進行すると、心臓の血管では狭心症・心筋梗塞、脳の血管では脳梗塞、足の血管では末梢動脈疾患などを引き起こします。
HDLコレステロール(善玉コレステロール)
HDLコレステロールは、血管などに余ったコレステロールを回収して肝臓へ戻す働きがあるため、「善玉コレステロール」と呼ばれています。
HDLコレステロールが低いことも、動脈硬化性疾患のリスクと関連します。
中性脂肪(トリグリセライド)
中性脂肪は身体にとって重要なエネルギー源ですが、過剰になると脂肪肝や肥満につながります。
中性脂肪が高い状態では、動脈硬化を起こしやすい小型のLDLが増えることも知られています。
また、中性脂肪が著しく高い場合には、動脈硬化だけではなく急性膵炎を起こす危険性があります。
脂質異常症の診断基準
日本動脈硬化学会では、以下を脂質異常症の診断基準としています。
・LDLコレステロール 140mg/dL以上
高LDLコレステロール血症
・LDLコレステロール 120~139mg/dL
境界域高LDLコレステロール血症
・HDLコレステロール 40mg/dL未満
低HDLコレステロール血症
・中性脂肪 150mg/dL以上(空腹時)
高トリグリセライド血症
・中性脂肪 175mg/dL以上(随時採血)
高トリグリセライド血症
ただし、「LDLコレステロール140mg/dLを超えたら全員が薬を飲む」という意味ではありません。
治療が必要かどうかは、その方の動脈硬化のリスクによって判断します。
コレステロールはいくつまで下げればよいのでしょうか?
LDLコレステロールの目標値は、一人ひとり異なります。
例えば、
心筋梗塞や狭心症を起こしたことがない方
まだ心筋梗塞や脳梗塞を起こしていない方に対して、それらを初めて発症することを防ぐ治療を「一次予防」と呼びます。
スタチンには、一次予防においても心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントを減らすことを示す多くの研究があります。
ただし、ここで重要なのは「誰でもスタチンを飲めばよい」ということではありません。
もともと心血管病を起こす可能性が低い方では、LDLコレステロールが多少高くても、まず食事や運動などの生活習慣改善を行い、経過を見ることがあります。
一方で、
・高血圧がある
・糖尿病がある
・喫煙している
・慢性腎臓病がある
・家族に若くして心筋梗塞を起こした人がいる
・LDLコレステロールが非常に高い(目安として未治療で180mg/dL以上)
といった場合には、将来の心血管病リスクが高くなるため、より積極的に薬物治療を検討します。
また、海外ではLDLコレステロール190mg/dL以上は、10年リスクの計算結果にかかわらず積極的な治療を検討する代表的な基準のひとつとされています。
したがって当院では、LDLコレステロールの数字だけでスタチンを開始するのではなく、年齢、血圧、糖尿病、喫煙歴、腎機能、家族歴などを含めて患者さんごとの心血管リスクを評価し、治療の必要性を判断します。
すでに心筋梗塞や狭心症を起こしたことがある方
これを「二次予防」といいます。
一度、心筋梗塞や狭心症などの動脈硬化性疾患を発症した方は、再び心筋梗塞や脳梗塞を起こすリスクが高いため、LDLコレステロールをより厳格に管理する必要があります。
日本のガイドラインでは、冠動脈疾患の二次予防ではLDLコレステロール100mg/dL未満を基本とし、急性冠症候群、糖尿病、家族性高コレステロール血症などを合併する特にリスクの高い患者さんでは70mg/dL未満が推奨されています。
一方、海外のガイドラインでは、心筋梗塞などを発症した非常にリスクの高い患者さんでは、LDLコレステロール55mg/dL未満、かつ治療前から50%以上低下させることを目標とする、より積極的な治療が推奨されています。
近年の研究では、LDLコレステロールは十分に低い範囲まで下げるほど心血管イベントが少なくなることが示されており、「正常範囲に入ればそれでよい」という考え方ではありません。
そのため当院では、心筋梗塞・狭心症の既往、糖尿病、家族性高コレステロール血症などを考慮し、患者さんごとに適切なLDLコレステロールの目標値を設定します。
LDLコレステロールを下げると本当に心筋梗塞を予防できるのでしょうか?
これは非常によく研究されている分野です。
多数の大規模臨床試験をまとめた研究では、LDLコレステロールを約40mg/dL低下させると、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な心血管イベントが、おおむね20%前後減少することが示されています。
そして、もともとの心血管病リスクが高い人ほど、実際に得られる利益は大きくなります。
「スタチンは死亡率を下げない」というのは本当ですか?
インターネットや週刊誌などで、「スタチンはコレステロールの数字を下げるだけで、寿命は延ばさない」といった情報を目にすることがあります。
しかし、この表現は正確ではありません。
心筋梗塞や狭心症などをすでに発症した患者さん、つまり二次予防では、スタチンによって心筋梗塞や脳卒中の再発だけでなく、心血管死亡や総死亡が減少することが多くの研究で確認されています。
一方、心血管病をまだ発症していない一次予防では、もともとの死亡率が低いため、死亡だけを評価項目とすると研究によって統計学的な差が出にくい場合があります。
それでも、多数の臨床試験をまとめた解析では、心筋梗塞・脳卒中などの心血管イベントを減少させる効果は明確に示されており、総死亡についても小さいながら減少が認められています。
つまり、
「一次予防では誰にでも薬を使えばよいわけではない」
ということと、
「スタチンには予防効果がない」
ということは全く別の話です。
大切なのは、患者さんごとの将来リスクと治療によって得られる利益を考えて、薬を使うかどうかを決めることです。
二次予防ではスタチン治療が特に重要です
心筋梗塞や狭心症を一度発症した方は、その後再び心血管イベントを起こすリスクが高くなっています。
このような患者さんでは、スタチン治療によってLDLコレステロールをしっかり低下させることで、心筋梗塞、脳卒中、心血管死亡などを減らせることが確立しています。
そのため、二次予防では「LDLが基準値以内だから薬はいらない」とは考えません。
例えばLDLコレステロールが120mg/dLであっても、過去に心筋梗塞を起こした患者さんでは治療が必要です。
一次予防と二次予防では、同じLDLコレステロール値でも治療方針が大きく異なります。
脂質異常症の原因
脂質異常症には生活習慣以外にもさまざまな原因があります。
・遺伝的な体質
・肥満
・運動不足
・飲酒
・糖尿病
・甲状腺機能低下症
・腎臓病
・ネフローゼ症候群
・一部のお薬
などがあります。
特にLDLコレステロールが著しく高い場合や、若いころから高値が続いている場合には、「家族性高コレステロール血症(FH)」の可能性も考える必要があります。
家族性高コレステロール血症(FH)
家族性高コレステロール血症は、遺伝的にLDLコレステロールが高くなる病気です。
一般的な脂質異常症より若いころから動脈硬化が進行し、若年で心筋梗塞を発症することがあります。
・未治療のLDLコレステロールが180mg/dL以上
・家族にもコレステロールが非常に高い人がいる
・家族に若くして心筋梗塞・狭心症を発症した人がいる
・アキレス腱が厚いと言われたことがある
といった場合には注意が必要です。
脂質異常症の治療
1.食生活の改善
LDLコレステロールが高い場合には、肉の脂身、バター、生クリームなど飽和脂肪酸の多い食品を取りすぎないことが大切です。
魚、大豆製品、野菜、海藻などをバランスよく摂取します。
中性脂肪が高い場合には、アルコール、糖分の多い飲料、菓子類、炭水化物の過剰摂取にも注意が必要です。
2.運動
ウォーキングなどの有酸素運動を継続することは、中性脂肪の低下やHDLコレステロールの改善に役立ちます。
3.禁煙
喫煙は脂質異常症とは独立した強力な動脈硬化の危険因子です。
コレステロールだけを治療していても、喫煙を続けていれば心筋梗塞や脳卒中のリスクは十分には低下しません。
4.薬物療法
LDLコレステロールを下げる薬として最も多く使用され、心血管病予防のエビデンスが確立しているのが「スタチン」です。
患者さんの状態に応じて、
・スタチン
・エゼチミブ
・PCSK9阻害薬
・その他の脂質異常症治療薬
などを使用します。
中性脂肪が高い場合には、病態に応じて異なる種類のお薬を使用することもあります。
スタチンの副作用が心配な方へ
スタチンは世界中で長年使用され、安全性について多くのデータが蓄積されている薬です。
一方で、まれに肝機能障害や筋肉の症状などがみられることがあります。
当院では必要に応じて血液検査を行い、副作用がないか確認しながら治療します。
筋肉痛などが出た場合にも、すべてのスタチンが使用できないとは限りません。
薬の種類や量を変更したり、スタチン以外の薬を組み合わせたりすることで治療できる場合があります。
健康診断でコレステロールが高いと言われたら
健康診断で、
「LDLコレステロールが140を超えていた」
「悪玉コレステロールが高いと言われた」
「中性脂肪が高かった」
という場合にも、すぐに薬が必要とは限りません。
一方で、数値だけを見て「少し高いだけだから大丈夫」と判断するのも適切ではありません。
年齢、血圧、血糖、腎機能、喫煙歴、家族歴などを含めて、将来の動脈硬化リスクを評価することが重要です。
当院では健康診断結果をご持参いただければ、治療が必要かどうかを含めてご相談いただけます。
葛飾区・金町で脂質異常症、高コレステロール血症についてご相談ください
森嶋クリニックでは、脂質異常症、高LDLコレステロール血症、高中性脂肪血症の診療を行っています。
単に検査値を下げることを目標とするのではなく、循環器専門医として、患者さん一人ひとりの将来の心筋梗塞・脳梗塞のリスクを考えた治療を行っています。
健康診断でコレステロールの異常を指摘された方、現在の薬を続ける必要があるのか疑問をお持ちの方なども、お気軽にご相談ください。
作成・監修: 森嶋 素子 (循環器専門医/日本プライマリ・ケア連合学会認定医)
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