
今回は、最近報告が増えている「百日咳(ひゃくにちぜき)」について、最新の情報を踏まえた注意喚起と、予防接種の重要性についてお話しします。
百日咳とは?
百日咳(ひゃくにちぜき)は、「ボルデテラ・パータスシス(Bordetella pertussis)」という細菌によって引き起こされる急性の呼吸器感染症です。
強くて長引く咳が特徴で、乳幼児では「コンコンヒュー」と笛のような吸気音を伴う発作的な咳(痙咳)がみられることもあります。
大人では風邪のような症状で済むことが多い一方で、生後6か月未満の赤ちゃんでは重症化することも多く、時には入院や集中治療が必要になるケースもあります。
咳による嘔吐、呼吸困難、無呼吸発作などが見られることもあり、乳児死亡の原因となることもある危険な感染症です。
感染力も非常に強く、家庭や学校、保育施設などで集団感染が起きやすいため、予防接種による対策が非常に重要です。
百日咳感染者数の増加とマクロライド耐性菌の出現
百日咳は、かつてワクチンの普及によって患者数が大幅に減少した感染症です。
しかし、2024年中盤から再び増加傾向が見られ、重症例の報告も増えています(出典:日本小児科学会 2025年3月29日付資料)。
特に心配されているのは、マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンなど)への耐性を持つ「耐性百日咳菌」の増加です。
大阪・鳥取・沖縄などで、耐性菌の国内での感染例が複数報告されており、今後の治療方針にも大きな影響を与えつつあります。

ワクチンは命を守る最前線
百日咳は、特に生後半年未満の乳児で重症化のリスクが高く、時に集中治療を要することもあります。
現在、日本では生後2か月から「5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)」の定期接種が始まり、4回の接種が推奨されています。
接種可能な時期になったら速やかに接種をすることが日本小児科学会でも強く推奨されています。
また、抗体の減弱により、就学前や思春期(11〜12歳)にも追加接種が必要であるとし、3種混合ワクチン(DPT)の再接種を推奨しています。
なぜ三種混合(DPT)ワクチンの追加接種が必要なのか?
ワクチン接種によって百日咳に対する抗体は獲得されますが、その効果は4年〜10年で徐々に減弱することがわかっています。
実際、2018〜2019年のデータでは、感染者の約8割が小児期にワクチンを4回接種していたにも関わらず百日咳にかかっていました。
そのため、小学校入学前(5〜6歳)や、11〜12歳での**追加接種(DPTワクチン)**が強く推奨されています。
また、妊娠中の女性がワクチンを接種することで、生まれてくる赤ちゃんに移行抗体を通じて免疫を付与し、乳児期の重症化を予防できるとされています。
任意接種ではありますが、乳幼児の重症予防、集団内での流行抑止の観点から、希望される方はぜひご相談ください。
海外では「母親の妊娠後期接種」や「家族全員のワクチン」が主流に
百日咳に対する予防策として、オーストラリアや欧米では妊婦へのワクチン接種や、家族全体での追加接種(コクーン戦略)が行われています。これは、生後間もない赤ちゃんを守るため、周囲の大人たちが「うつさない壁」になるという考え方です。
日本環境感染学会のワクチンガイドラインでも、新生児・乳児と接する医療関係者や妊婦の家族への百日咳ワクチン接種が推奨されています。
まとめ:感染拡大を防ぐために、今できること
- 乳児期の定期接種を忘れずに
- 就学前・思春期にも1回の追加接種を検討
- 妊娠後期の妊婦さんや乳児に接する家族もワクチン接種を
- マクロライド耐性菌の増加により、予防の重要性がより一層高まっている
百日咳は「昔の病気」ではありません。
現代でも、赤ちゃんの命を脅かす危険な感染症です。ワクチンで防げる病気だからこそ、正しい知識とタイミングが重要です。
当院では、ワクチンのご相談も承っております。
接種スケジュールやご不安な点がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
