妊娠中の薬
妊婦さんがよく遭遇する症状とお薬について解説します。
①嘔気・胸焼け
妊娠初期のつわりの時期はとても辛いですよね。
症状を和らげるお薬で、安全に使用できるものがあります。
- メトクロプラミド(プリンペラン)
- 半夏厚朴湯
- 小半夏加茯苓湯
また、生姜(しょうが)の香りや成分がつわりを軽減することもわかっています。生姜湯などで取り入れてみられると良いかと思います。
妊娠後期でお腹が大きくなってくると、胃酸の逆流症状が出てくる方が多くいらっしゃいます。
食事を小分けにして食べたり、枕を高くして寝るなどの工夫で改善することもありますが、それでも辛い症状の場合は、以下のお薬が使用できます。
- スクラルファート(アルサルミン)
- ヒスタミンH2受容体拮抗薬(ファモチジンなど)
- プロトンポンプ阻害剤(ネキシウム、オメプラール)
②便秘
便秘も多くの妊婦さんが悩まされる症状です。以下のお薬が安全に使用できます。
- 酸化マグネシウム
- ピコスルファートナトリウム水和物
酸化マグネシウムというお薬が安全に使用できます。腸から吸収されずに腸の中の水分を吸収して便を柔らかくするお薬です。
酸化マグネシウムのみで効果が不十分な際には、ピコスルファートナトリウムを用います。こちらは便を柔らかくするだけでなく、大腸の刺激して腸の蠕動運動を活発にする作用があります。子宮の収縮を誘発してしまう可能性もあるため、担当の産婦人科の先生とご相談ください。
③腰痛
妊娠20週を過ぎてお腹が大きくなってくると、約半数の妊婦さんに腰痛が出現します。
発熱や足の痺れ、歩くのが困難なほどの発熱は、腎炎や脊椎の病気などが疑われますので、まずは担当の産婦人科の先生にご相談ください。
腰痛に対しての痛み止め、湿布の使用には注意が必要です。
使用できる鎮痛剤は以下の
- アセトアミノフェン
です。
近年、妊娠中のアセトアミノフェンの使用と児の発達障害のリスク上昇の関連についての研究報告があります。現時点では結論は出ておりませんが、必要時の使用にとどめ、長期連用は避けるべきかと思います。
ロキソプロフェンやジクロフェナクナトリウム、イブプロフェンなどのNSAIDsと呼ばれる鎮痛剤は胎児への影響が報告されているため使用を控えてください。
市販の湿布や以前処方された湿布を自己判断で使用することもお控えください。
湿布で妊婦さんに安全に使用できるものとしては
- MS冷シップ
- MS温シップ
があります。
サリチル酸メチルという成分で、妊婦さんにも安全に使用することができます。
市販のサロンパス®︎も同じ成分です。
④頭痛
妊娠中はホルモンバランスの変化で頭痛を起こす方も多いです。
以下のお薬が使用できます。
- アセトアミノフェン
- 五苓散
- 呉茱萸湯
しかし、妊娠中の頭痛は頻度は少ないですが、妊婦さんの命に関わるものもありますので、注意が必要です。
収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上であったり、吐き気、目がチカチカする、手足が痺れる、むくむなどがある場合には担当の産婦人科の先生にご相談をしてください。
⑤発熱・風邪症状
ご家族からインフルエンザや新型コロナウィルスがうつってしまった、という妊婦さんは多くいらっしゃいます。
インフルエンザは妊婦さんが感染すると重症化しやすいことがわかっています。
以下のお薬は安全に使用できることがわかっています。
- タミフル
- リレンザ
- イナビル
また、インフルエンザワクチンは妊娠中いつでも接種が可能ですので、接種をお勧めいたします。
新型コロナウィルスの感染については、特に妊娠後期に感染すると重症化・早産のリスクが高くなるという報告もあり、感染してしまった場合には、担当の産婦人科の先生にご連絡をしてください。
新型コロナウィルスの治療薬は、妊娠中の使用が禁忌とされているものが多くあります。
特にゾコーバというお薬を投与後に妊娠が発覚したという報告が増えています。妊娠の可能性がゼロでない場合には処方を控えるべきで、これは医師の側が注意するべき点と思います。
その他、風邪症状に対しては、対症療法といって症状を和らげるお薬を使用しますが、妊娠中に使用できるものとしては以下のものがあります。
発熱、咽頭痛、頭痛、関節痛など
- アセトアミノフェン
咳
- デキストロメトルファン(メジコン)
- 麦門冬湯
鼻水
- 点鼻薬
- ジルテック
- ザイザル
- クラリチン
つらい咳や喉の痛みにはハチミツが有効であることが医学的にも証明されており、よく効きます。ぜひお試しください。
また、妊娠前から喘息持ちで治療されている方は、以下の喘息の治療薬は安全に継続ができます。
約1/3の妊婦さんで妊娠中に喘息が悪化することがわかっていますので、治療を中断せずにお薬を継続してください。
- 吸入薬(フルタイド、アドエア、シムビコート、レルベアなど)
- ロイコトリエン拮抗薬(モンテルカスト)
⑥漢方薬
妊娠中でも漢方薬なら大丈夫、と思っていらっしゃる方も多いかもしれません。
以下の漢方は短期の使用であれば問題ありませんが、長期使用には注意が必要です。
大黄を含むもの:子宮収縮を促す
防風通聖散、大柴胡湯など
麻黄を含むもの:子宮血流が低下する
葛根湯、小青竜湯、麻黄湯など
漢方薬も自己判断では内服せず、医師にご相談ください。
授乳中の薬
授乳中のお薬は、妊娠中とは異なり一部の例外を除いて、お子さんに大きな影響を及ぼすことは少ないです。
注意が必要なお薬は以下となりますので、
担当医にご相談ください。
- 抗てんかん薬
- 抗うつ薬
- 抗不安薬
- オピオイド(コデインなど)
- 炭酸リチウム
- ヨウ素
- 抗がん剤
注意が必要なものとしてはコデインがあります。
諸外国では禁止されているのですが、日本では市販の感冒薬にコデインがはいっていることがありますので、ご注意ください。